2009年8月17日月曜日

【連載】日食を追って 2009夏 vol.3

船の上の生活は、想像以上に大変だった。トイレは海水をバケツで汲んで流すセミオート水洗だったし、頼みの綱のバケツは初日に海の底に沈んでしまった。港の近くには飲食店もスーパーもなかった。レンタカーも予約で一杯でタクシーで港から出かけてはまた帰って来た。気分はほとんど密入国者だった。それでも、その船で観測のベストポイントと言われる喜界島周辺まで連れて行ってもらい、最高の場所で日食が見られるという希望があったのでさほど苦痛には感じなかった。

そして待ちに待った日食当日。天気は最悪だった。我々が屋久島に着いてから天気はずっと良かったのだが、その日に限って朝から土砂降りだった。早朝、船のオーナーがやってきて、
「この天気ではとてもじゃないが船は出せない」
と申し訳なさそうに言った。
我々は神を呪って船室でふて腐れていた。

いよいよ日食の時間が迫ってきて、港にいた日食待ちのヨットマンたちが外から声をかけてきた。風が急に強くなり、辺りが少しずつ暗くなってくる。気温が一気に5度ほど下がったように感じた。急に寒くなったためなのか、興奮しているからなのかわからないが、鳥肌が立った。遠くで犬の遠吠えが何度も聞こえた。それまで「もうすぐだ」と口々に騒いでいた人々が、申し合わせたかのように黙り込んで、ひたすら空を見上げた。



筆者は当初、日食の様子をしっかり写真に収めようと思っていたのだが、途中で記録することを完全に放棄してしまった。リポーターとしては最低だが、自分の五感をフルに使ってこの類まれな現象を体験したいと思った。

結果はひどいものだった。空は雲が多すぎて真っ暗にならず、太陽の輪郭さえ見えなかった。いつ完全な皆既日食になったのすらわからなかった。我々の日食ツアーは終わった。

東京に帰ってくると、心ない知人が「こっちでも一瞬重なったのが見えましたよ」と言った。しかし、日食は毎年世界のどこかで見られる。いつか必ずリベンジしようと心に誓った。(終わり)

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