他の客が次々と宿へ向かうのをアホ面で見ている我々にオーナーが言った。
「そうか、Y田さんらは、泊まるとこないんだったな・・・」
「・・・あれ、Mさんのお宅に泊めて頂けるんですよね?」
事前の電話で、屋久島の宿が日食フィーバーでとれなかった旨告げると、オーナーは「そんならウチに泊まればいいさ」と快諾してくれた、はずだった。
「それがな、ちょっとおふくろが体調悪くして寝込んどって、ま、泊まれんことはないんだが・・・」
そんな状況で泊めてもらうのは我々も心苦しかったので、それなら遠慮しようということになった。
「今からどこか宿の空きに心当たりはないですか?」
「う~ん。・・・あ、なんならこの船に寝泊まりしてもかまわんけど。もちろんあんたらさえ良ければ」
「ちょっと、お父さん、そんなのあんまりよ!」
オーナーの娘さんがすかさずツッコんだ。

悪乗りの好きな我々は、一瞬顔を見合わせてから無言で頷いた。
筆者は一同を代表して言った。
「是非、船に泊まらせてください」
漁船に泊まるという滅多にないシチュエーションに好奇心をくすぐられたのだった。
「本当に船でいいんですか?」
「はい、今から宿を見つけるのも無理そうだし・・・」
結局、話はまとまって、船を係留しておく一湊(いっそう)という港に移動することになった。
一湊に着くと、山側からものすごい強風が吹きつけていた。
「ずいぶん風が強いですね。天気が崩れるのかな・・・」
「ああ、ここはな、山側から風が吹き下ろしてくるんで、いつもこんなんだ」
船長が海の男特有の大らかな笑顔で言った。
我々は顔を見合わせて、力なく微笑んだ。もちろん嬉しかったわけではない。(次回に続く)
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