2009年7月24日金曜日

【連載】日食を追って 2009夏 vol.1

時として、皆既日食が人の一生を激変させるほど神秘的な現象だということは、経験者からくどいほど聞かされていた。数年前、トルコのアンタルヤでの皆既日食に行こうとし、チケットまで押さえておきながらドタキャンした筆者は、今度こそ見逃してなるものかとあらかじめ各方面に根回しを怠らなかった。メンバーも割りと早くから決まっていて、筆者は3名の女友達と行くことになった。

なんとか羽田から鹿児島までのエアチケットは手に入ったが、鹿児島から我々の目的地である屋久島まで行くのには、フェリーのチケットが必要だった。しかし、そのチケットは早くから計画している日食ハンターや計画性のある旅行者によって全て押さえられていて、手に入らなかった。一計を案じたメンバーのY田が漁船に片っ端から電話を掛け、ようやく一隻の船に乗せてもらえることになった。

我々はこれで日食が見られると安堵した。

渡航前夜、鹿児島在住の知人と酒を飲んでいて、
「定員十五人ぐらいの船で屋久島まで行くんだ」
と言うと、ひどく驚いて
「漁船で屋久島まで行くなんてどうかしとる。何時間かかるかわからんぞ」
と何度も何度も言うのだった。我々は少しだけ不安になった。

いざ、鹿児島の指宿(いぶすき)に近い港に来てみると、いくつか船が停泊している中にちょうど15人程度が余裕を持って乗れそうな大型クルーザーがあった。
「おお! あれじゃない? 大きさからしてちょうどいいし」
当初は大間のマグロ漁師が使うような小さい漁船をイメージしていたので、我々の胸は期待に高鳴った。

その時、クルーザーに向かって歩く我々を呼び止める声がした。
「Y田さん(予約した友達)ですか?」
振り返ると還暦近い男性と三十前後の女性が立っていた。
どうやら船の世話人の親子らしかった。
筆者は尋ねた。
「ぼくらの乗る船はどれですか?」

男性は波止場から少しだけ頭を出している船を指して言った。
「それ、そこにとまっとるやつ」

いやな予感がした。

出向直前、港にあるトイレに入るとこんな張り紙がしてあった。

「一歩前へ。その積極性があなたの人生を変える」

そうだ。もう決めてしまったんだ。前へ進むしかない。
筆者は背筋を伸ばして両頬を掌で叩くと、船に向かった。(次回に続く)

※男子便所にある「一歩前へ」という張り紙は、小便がハネるのを防ぐためのものです。

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