なんとか羽田から鹿児島までのエアチケットは手に入ったが、鹿児島から我々の目的地である屋久島まで行くのには、フェリーのチケットが必要だった。しかし、そのチケットは早くから計画している日食ハンターや計画性のある旅行者によって全て押さえられていて、手に入らなかった。一計を案じたメンバーのY田が漁船に片っ端から電話を掛け、ようやく一隻の船に乗せてもらえることになった。
我々はこれで日食が見られると安堵した。
渡航前夜、鹿児島在住の知人と酒を飲んでいて、
「定員十五人ぐらいの船で屋久島まで行くんだ」
と言うと、ひどく驚いて
「漁船で屋久島まで行くなんてどうかしとる。何時間かかるかわからんぞ」
と何度も何度も言うのだった。我々は少しだけ不安になった。
いざ、鹿児島の指宿(いぶすき)に近い港に来てみると、いくつか船が停泊している中にちょうど15人程度が余裕を持って乗れそうな大型クルーザーがあった。
「おお! あれじゃない? 大きさからしてちょうどいいし」
当初は大間のマグロ漁師が使うような小さい漁船をイメージしていたので、我々の胸は期待に高鳴った。
その時、クルーザーに向かって歩く我々を呼び止める声がした。
「Y田さん(予約した友達)ですか?」
振り返ると還暦近い男性と三十前後の女性が立っていた。
どうやら船の世話人の親子らしかった。
筆者は尋ねた。
「ぼくらの乗る船はどれですか?」
男性は波止場から少しだけ頭を出している船を指して言った。
「それ、そこにとまっとるやつ」
出向直前、港にあるトイレに入るとこんな張り紙がしてあった。
そうだ。もう決めてしまったんだ。前へ進むしかない。
筆者は背筋を伸ばして両頬を掌で叩くと、船に向かった。(次回に続く)
※男子便所にある「一歩前へ」という張り紙は、小便がハネるのを防ぐためのものです。
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